◇雪中探梅
◇初冬偶成
◇奄美大島周遊
◇曉起知春近
◇雪後偶拈
◇歳旦看白鷺
家の近くの川のほとりに、梅の木がポツンと植わっています。その木の梅の花は、一月の初旬に真っ先に春の訪れを知らせてくれます。ある日、その家の奥さんが外におられたので話かけると、「この木は息子が生まれた時に記念に植えたんですよ」ということでした。
その話を聞いて、特に記念はないのですが、梅の苗を買って庭に植えました。今春は二度目の春ですが、背が高くなって下の方にわずかに花をつけてくれました。来春にはもっと花が増えることを期待しています。
意訳 早朝に散歩に出かけると、眼界が開けて清らかに晴れ渡っており、川のほとりのいつも通る道にはきれいな雪が積もっている。どこからともなくかすかな香りがするが、どこからだろうか。梅の木の数枝に、(雪かと思ったが)白い花が覗いているのをみつけた。
今年は10月に入っても昼間の暑さが収まらない状態が続きましたが、中旬を過ぎると急に気温が下がりました。夏からいきなり冬になるような気配です。急に気温が下がると、紅葉が鮮やかになるのではないかと期待しています。作詩時点は10月中旬ですが、詩題は「初冬○○」としているので、紅葉が盛りを過ぎた情景を想定し、そこに、以下の千利休と豊臣秀吉との間の逸話にある「一輪の朝顔」を重ねてみました。
利休が秀吉を茶会に誘いますが、その茶室には一輪の朝顔が飾られているだけで、庭に咲き誇っていた朝顔はすべてその花が切られていました。利休の侘びの美学では一輪であるがゆえに、これ以上削りようのない美しさということになります。しかし、キンキラキンを好む秀吉は、これを自分に対するイヤミと受け止めたことでしょう。これが利休に切腹を命じた一因になったのかもしれません。
節入新寒朝気清 節は新寒に入り 朝気清し
餞秋詩客踏霜行 餞秋の詩客 霜を踏んで行く
俗塵不到空林裏 俗塵は到らず 空林の裏
一樹殘楓亦覺情 一樹の残楓 亦 情を覚ゆ
令和三年十月 光琇
意訳 季節は初冬となり、朝の空気がさわやかだ。秋の去ったあと、詩人は霜を踏んで歩いていく。市街地の喧騒から離れた林には人影がなく落葉も進んでいる。そんな林の中、紅葉を残したかえでがひっそりと残っており、これもまた紅葉の盛りと違った風情を感じさせてくれる。
奄美大島は、九州南方海上、鹿児島市と沖縄島とのほぼ中間に位置する島で、面積は淡路島より少し大きく、712平方キロです。青く透明度の高い海(アマミブルー)に囲まれ、島内には原生林が広がっています。また、中部に位置する「黒潮のマングローブ・パーク」では、マングローブ・ジャングルの間を清流が流れるという独特の景観を形成しています。
島は亜熱帯の海洋性気候で、冬は晴れる日が少ないが、それでも三〇度を超える日もあります。そんな常夏の地に、ハイビスカス、ブーゲンビリアといった南国の花が咲き誇っています。たまに訪れる旅人にとっては、パラダイスのような島ですが、定住するとなれば、やはり四季折々の景物の変化を楽しめる本州のほうが宜しいのでは・・・。
紺碧環礁雨霽時 紺碧の環礁 雨霽るる時
白沙千里接天涯 白沙千里 天涯に接す
雖冬日暮有餘暖 冬と雖も 日暮 余暖有り
孰與寒嚴四気移 孰與 寒厳しく 四気移るに
(註) 四気=四季の気候
令和三年一月 光琇
・第十三回諸橋轍次博士記念漢詩大会二〇二一 佳作作品
意訳 奄美大島では、空が晴れるとサンゴ礁の海は紺碧に染まり、白い砂浜はどこまでも続いている。十二月の夕方だというのにまだ暖が残っている。亜熱帯の住みやすそうな島だが、冬は寒いが四季の景物を楽しめる本州とどちらがいいだろうか。
早曉渓頭梅蕾膨 早曉の渓頭に梅蕾膨らみ
山光映水露晶晶 山光 水に映じて 露晶々たり
忽聞鶯語東風外 忽ち聞く 鴬語 東風の外
煙散乾坤春意盈 煙散じて 乾坤に春意盈つ
(註) 乾坤=天と地
平成三一年一月 光琇
いつもの川べりの散歩道は、風がなくて日差しが暖かく感じます。早起きは三文の得。空気も景色も新鮮で、鳥たちが飛び回っています。気が付くとすでに梅の蕾がふくらんでおり、春の気配を感じさせてくれます。水も少しは温んでいるのでしょうか。
梅の次は桜、その後、次から次へと主役が入れ替わり、私たちの目を楽しませてくれます。四季のある国日本、この国の素晴らしい自然を損なうことなく次の世代に残していきたいですね。
意訳 朝早くに谷川に沿って散歩すると、梅の蕾がもう膨らみ始め、山からさす光が水に反射して朝露をキラキラ輝かせている。突然、春風のかなたで鶯の声が聞こえてきた。霞が消えると、春の気配がすでに天地に満ちている。
赤倉で宿泊したホテルの前はスキーのゲレンデでした。夜、ふと窓から外を眺めると、クローズした後のゲレンデの光景があまりに幻想的だったので、思わずシャッターを切りました。昼間はおそらくスキー客で賑わっていたのでしょうが、夜は全く人気がなく、ただわずかな照明が雪景色を浮かび上がらせていました。
若い時に赤倉でスキーをしたことがありますが、70歳を過ぎた今は、さすがにそんな気にはなりません。ご馳走を食べてゆっくり温泉というのが最高です。
意訳 北国の寒風の中を旅したら、新雪が白く輝いて静かに果てしなく広がっている。雪を抱いた木々はぼんやりと霞んで全く人の気配がない。そして旅館の前に小さな灯が見えるだけだ。
寒風北國客中天 寒風の北国 客中の天
新雪皚皚靜渺然 新雪皚々 静にして渺然たり
玉樹模糊人語絶 玉樹模糊として 人語絶え
殘燈耿耿旅窗前 残灯耿々たり 旅窓の前
(註一) 暟暟=明るく白いさま
(註二) 渺然=はてしないさま
(註三) 耿耿=小さくぽっと明るいさま
平成三十年十二月 光琇
早暁逍遥河岸辺 早暁に逍遥す 河岸の辺
曈曈旭日映清漣 曈曈たる旭日 清漣に映ず
跳波白鷺游寒水 波跳らす白鷺 寒水に游び
比翼悠悠上碧天 比翼悠悠 碧天に上る
(註一) 曈曈=夜のあけわたるさま
(註二) 清漣=すんだ水の表面に立つさざ波
(註三) 比翼=鳥などが飛ぶときに翼をならべる
(註四) 碧天=青空
平成二十九年一月 光琇
今年の正月は天気も良く暖かかったので、早朝に近くの芥川の堤防を散策しました。芥川は、大雨の後以外はいつも清流を保っており自然が多く残っているため、淡水魚だけではなく、シラサギやカモの遊び場にもなっています。川面で餌を探しているシラサギを撮影していると、突然大空に飛び立ちました。飛び立つところを撮影したのですが、悠然とした姿をうまくカメラに収めるのはなかなか難しく、経験と根気がいりそうです。
昨年は、イギリスの国民投票、アメリカ大統領選などが次々と予想外の結果となり、これからは今までの延長上で世界情勢が動いていかないことを予感させます。我が国においては、今まで以上に弾力的な国の運営が必要になりそうです。それはそれとして、シラサギの悠然と飛翔する姿をみていると、なんとなく今年はいい年になりそうな気がしてきました。
意訳 朝早くに川岸のほとりをぶらついたら、ちょうど朝日が昇ってきて澄んだ水面に映じて美しく輝いている。白鷺が波を立てて冷たい水の中で遊んでいる。その後、翼を並べて悠々と青空に飛び立った。