◇櫻花下作
◇探梅
◇春興
◇花時出遊
◇日比谷公園松本楼
◇驟暖踏青
◇暁起渉園
◇近江客中知春
◇山中獨賦
◇暁庭聞鶯
◇芥川春気滿
◇春日懐郷
◇早春逍遥
◇湖北晩景
◇待櫻花
◇摂津峡春来
◇探春
以前に、作詩仲間と近所の摂津峡公園まで歩いて行き、満開の桜の下で宴会を開いたことを思い出して作詩しました。公園は高台にあり見晴らしもいいので、遠くからも花見客がやってきます。
摂津峡は、高槻市の芥川沿いの景勝地で、奇岩や断崖が続いています。キャンプ場などもあり、上の口から下の口までの4kmはハイキング・コースとなっています。下の口にある公園では、ソメイヨシノなど約230本が咲き誇り、シーズンにはお花見を楽しむ人々でにぎわいます。また、ライトアップやぼんぼりが灯され、摂津峡桜祭りが開催されます。
意訳 川筋の一角に、桜の花が見渡す限り雲をなすように咲き誇っている。その木の下で、詩の仲間と酒宴を開いた。酔いが回り、騒々しい話と笑い声で垂れ下がった枝の花が揺れ、花弁が散り落ちて杯に入ってきた。
自宅(高槻市)の近くの芥川には、いつも清流が滾々と流れています。亀岡市の生活用水は京都側に流れるので、上流に水を汚す市街地がないためです。暖かい日には、シラサギ、ハクセキレイといった水鳥が水辺で遊び、木々では小鳥たちがにぎやかです。春先には梅の花が真っ先に開きます。
春の訪れを最初に告げてくれる梅の木を庭に植えたいと思っています。この話を娘にしたら、せっかく植えるなら、梅干しを作りたいので実のなるのを選んでほしいというリクエストがきました。まさに花より団子です。無視していたら、「花果実」という品種は実が美味しくて花もピンクで可愛いというメールが来ました。私の探梅は、梅の木の品種の探梅ですが、それでは詩にならないので、花の探梅にしました。
依微細雨洗埃塵 依微たる細雨 埃塵を洗い
驟暖江村萬物新 驟暖の池頭 万物新なり
何處野梅香脈脈 何れの処の野梅ぞ 香脈々たり
山隅探得一枝春 山隅に探し得たり 一枝の春
令和五年二月 光琇
意訳 かすかな細かい雨がうまい具合に埃を洗い流してくれた。にわかに暖かくなった池のほとりの景色は、すべてが新しくなったようだ。どこの野梅だろうか、脈々とした香りが流れてくる。その発するところを探し回ったところ、山のふもとの隅に、一枝の梅が春の訪れを告げているのを見つけた。
コロナ禍から逃れられない昨今の状況ですが、「朝の来ない夜はない、春の来ない冬はない」と信じて、近々マスクなしで生活できる日がやってくるものと思っています。私自身は、コロナはすでにインフルエンザなみだと思って、医師会やマスコミのあおり報道は聞き流していますが、世の中はまだそうなっていないようです。
コロナはさておき、今年も長い冬が終わると、梅花が春の兆しを知らせ、桜の花が咲くと本格的な春の到来となります。その後、花の季節となり、新緑や芳草が芽を出して、鳥もあちらこちらでさえずるようになります。そんな中、昼間から生ビールを飲んでいる気分で作詩しました。
山郭江村春漸回 山郭 江村に 春漸く回り
百花繚亂一斉開 百花 繚乱 一斉に開く
遊禽幾囀幽林裏 遊禽 幾囀 幽林の裏
獨領風光把酒杯 独り風光を領して 酒杯を把らん
令和四年四月 光琇
意訳 山中の村も川辺の村も、だんだんと春めいてきて、多くの花が入り乱れるように開いた。小鳥が奥深い林の中で飛び回って囀っている。そんな雰囲気を一人占めして一杯やることにしよう。
今年は梅の開花が例年より早い分、散るのも早かったようです。しかし、桜も開花が早く、近所の芥川の堤防にぎっしりと植えられた桜は三月下旬に満開となりました。武漢肺炎による外出自粛で、満足に梅の花見ができずにもやもやしていましたが、桜の開花は気持ちを高揚させてくれました。
友人たちと桜の咲き誇る堤防の散策を楽しみましたが、まだ陽性者数が少なくなったわけではないので、飲めや歌えのドンチャン騒ぎをできるような状態でないのは残念なことです。
意訳 川岸にそよぐ柔らかい風にのって花の香りが流れ、橋の周辺には桜が所狭しと咲き誇っている。わずかに残っていた梅がすっかり散って、気が晴れずに落ち込んでいたが、友人たちと桜を愛でながら歩き回って風流な気分を満喫することができた。
嫋嫋江風香気流 嫋嫋たる江風に 香気流れ
櫻花千樹遍橋頭 桜花千樹 橋頭に遍し
殘梅落盡無聊甚 残梅落ち尽くして 無聊甚だし
携友徘徊恣勝遊 友を携えて徘徊 勝遊を恣にす
(註一) 無聊=なんとなく気が晴れない
(註二) 勝遊=風流な遊び
令和三年三月 光琇
皇居外苑一天晴 皇居の外苑 一天晴れ
白堊高楼樹蔭清 白堊の高楼 樹蔭に清し
去歳来参観月宴 去歳は来り参ず 観月の宴
今春獨歩賞鶯聲 今春は独り歩して 鴬声を賞せん
令和三年一月 光琇
意訳 皇居のすぐ外側にある日比谷公園は、すっかり晴れ渡った。公園にある白堊の楼閣(松本楼)は大樹の蔭で清楚な姿を呈している。去年の秋は、ここに来てテラスで観月の宴で盛り上がったが、この春は、一人で園内を散策して、鴬のさえずりを愛でることにしよう。
明治35年(1903年)に開園した日比谷公園は、東京の都心で皇居に隣接して清楚な空間を提供しています。長方形で、広さは16ヘクタールです。その中心に、明治の洋館風の松本楼があります。創立は公園と同時期で、今までに2回焼失し現在の建物は3代目です。森のレストランという触れ込みですが、宴会場や会議室もあり、以前にここでよく会議をしました。
転句と結句で秋と春、過去と現在、にぎわいと孤独、視覚と聴覚との対比を行ったつもりです。
春めいてくると、何となく外に出て活動したくなります。しかし、今年は武漢肺炎の蔓延により3密の回避が要請され、飲み会を初めいろんな行事がキャンセルされました。運動不足にならないように、朝食前に散歩に出かけるようにしていますが、同じことを考える人が多いせいか、近所の河川敷の散歩コースは、散歩やジョギングする人が増えて早朝がラッシュアワーになっています。
ただ散歩するだけではマンネリになるので、天気の良い日にはカメラを持って、花や鳥などの撮影をしています。写真の鳥はモズです。かわいい姿をしていますがモズは肉食です。2匹は喧嘩をしているのか、プロポーズしているのかよくわかりません。いずれにしても、アタックしようとする鳥と無視を決め込んでいる鳥とのコントラストが面白いですね。
暖風吹洽石渓頭 暖風吹いて洽し 石渓の頭
清水潺潺繞岸流 清水潺々 岸を繞りて流る
花放芳香禽送調 花は芳香を放ち禽は調べを送る
暫時信歩試吟喉 暫時歩に信せて 吟喉を試む
(註一) 踏青=春、若草をふんで郊外を散歩すること
(註二) 潺潺=水のさらさらと流れるさま
令和二年三月 光琇
意訳 急に暖かくなったので、谷川の石径を歩いていると、清流がさらさらと流れている。花はよい香りを送り、鳥は美しい声でさえずっている。少しの間ぶらぶらと歩いていると、詩を口ずさんでみたくなった。
最近は、早起きして近くの河原を40~50分散歩してから朝食をとるようにしています。適度な運動をすると朝食がおいしいですね。体の健康維持が第一の目的ですが、自然と触れ合うことによる心の健康維持がもう一つの目的です。春の訪れを告げる花はやはり梅です。散策コースに早咲きの梅があり、その開花は例年より早く、1月末にはもう満開になっていました。花を見ているとその家のおばさんが出てきて、早いので驚いているという話をされていました。
早朝、春の光に誘われて出かけ、どこからともなく漂ってくる梅の香りの方に足を運び、突然一枝の梅花を見つけるというシナリオの詩です。「早起きは三文の徳」といったところでしょうか。
簾外春光拂曉天 簾外は春光 払暁の天
出門暖気滿園田 門を出れば 暖気 園田に満つ
暗香浮動是何處 暗香浮動 是何れの処ぞ
一朶早梅牆角妍 一朶の早梅 牆角に妍たり
(註一) 払暁=夜明け
(註二) 牆角=土塀のかど
令和二年二月 光琇
意訳 すだれの外は夜明けの春の光がさし、外へ出れば、田舎町には已に暖気が満ち満ちている。どこからともなく花の香りがするので、どこからかを探っていると、土塀の角に小さな梅の花がひっそりと咲いているのを見つけた。
バスツアーで、琵琶湖を大津から右回りで一周しました。湖岸はどこも桜が満開でしたが、マキノ町の海津大崎は「日本のさくら名所100選」に選ばれているだけあって見事でした。樹齢70年を超える老桜から次世代に引き継ぐ若木まで約800本のソメイヨシノが湖岸に延々4kmにわたり桜のトンネルを作っていました。また、海津大崎は琵琶湖八景「暁霧・海津大崎の岩礁」としても知られている景勝地です。
これ以外に、長浜城の豊公園、彦根城のお濠周辺の桜も満開で、琵琶湖周辺は桜で満ち溢れていました。
欲探春信脱塵拘 春信を探らんと欲し 塵拘を脱す
伴友逍遥廻大湖 友を伴い逍遥 大湖を廻る
忽看水邊花發野 忽ち看る水辺 花 野に発くを
樽前幽賞與呑徒 樽前 幽賞す 呑徒とともに
(註) 塵拘を脱す=浮世をはなれる
平成三一年四月 光琇
意訳春の兆しを探ろうとして、日常を離れて友人と一緒に琵琶湖周辺をぶらついた。そこの水辺で、花が野原に開いているのを目にして、酒を交わしながらその花を愛でることにした。
神戸市立森林植物園は、神戸市北区の六甲山中にある広大な樹木植物園です。春は、園内は新緑に覆われ、木々の間を鳥たちが飛び交います。
山中の植物園なので、結構起伏があり長く歩くと疲れてきます。疲れたら木陰で一休みします。この漢詩では一休みしながら詩を作るとしていますが、その場ではなかなか詩ができないので、実際には詩になりそうな景色を撮影して、自宅でそれを見ながら作詩します。
意訳 六甲山の新緑の季節、空が晴れ渡っている。飛び回る鳥たちが鳴きながら行くところについてくる。一人で林間をぶらぶらしていると、詩情がわいてきた。一休みして、ゆったりした気持ちで一首作ってみよう。
六甲天晴新緑滋 六甲 天晴れて 新緑滋し
游禽格格弄相随 游禽格格弄して相随う
林間漫歩吟情動 林間 漫歩すれば 吟情動き
停杖從容獨賦詩 杖を停めて従容 独り詩を賦す(註)従容=ゆったりと落ち着いてくつろぐさま
令和元年五月 光琇
早春といえば梅と鴬です。梅を観ながら散歩していると、あちらこちらで鴬のさえずりが聞こえるようになりましたが、鴬の居場所はなかなかわかりません。また、梅と鴬をセットで撮影しようとして梅の木の前で待っていても、うまい具合に鴬が飛んできてくれません。
私の知り合いに小鳥写真を専門に撮影している人がおり、毎月きれいな写真を見せてくれます。小鳥が背景のきれいなスポットに来てくれないと撮れないので、根気よく来客を待っておられるのでしょう。また、動きの速い被写体を遠方から写すことになるので、素早く焦点を合わせて手ぶれを防ぐことが必要です。小鳥撮影は根気とテクニックがいります。
輕暖曉庭晴快然 軽暖の曉庭は 晴れて快然
暗香既動早梅妍 暗香既に動き 早梅妍なり
綿蠻何處鶯声好 綿蠻何れの処ぞ 鴬声好し
啼近竹籬又可憐 啼いて竹籬に近く 又可憐なり
(註) 綿蠻=鳥のか細くなく声
平成三一年二月 光琇
意訳 やや暖かさを感じる早朝の庭に出ると、晴れ渡って気持ちがいい。すでに幽かな花の香りが漂い、早咲きの梅が美しい。どこかで切れ目ない鴬の鳴き声が聞こえる。竹垣の近くに、可憐な姿で鳴いているのを見つけることができた。
高槻市の芥川はいつもの散歩コースです。上流の山間部は去年の台風21号の影響で杉の木が軒並みなぎ倒されており、未だ倒木がすべて除去されていません。しかし、中・下流部は何事もなかったかのように清流を湛えており、その清流に鳥たちが餌を求めてやってくるのを眺めながらいつも散歩しています。
川沿いにはわずかに梅の木があり、どこよりも早くにピンクの花を咲かせ、そこにも鳥たちが集まっています。豊かな自然が残っている芥川の環境をいつまでも大切にしたいものです。
北摂渓流雨一過 北摂の渓流 雨一過
青山雪解作江波 青山の雪解けて 江波を作す
野禽涵影游清水 野禽影を涵して 清水に游ぶ
芳草欲萌春気多 芳草萌えんと欲し 春気多し
平成三一年二月 光琇
意訳 雨上がりの北摂の谷川に碧山の雪が解けて川面に波が立っている。小鳥たちが水に姿を映して川の中で遊んでいる。よい香りの草花が芽吹き始め、春の気配が満ちてきた。
東風輯輯遍梅林 東風輯々 梅林に遍く
黄鳥頻頻遺玉音 黄鳥頻々 玉音を遺る
人道故山如此好 人は道う 故山此の如く好しと
思旋郷里動帰心 思は郷里を旋り 帰心を動かす
(註一) 輯輯=風がやわらかく吹くさま
(註二) 黄鳥=うぐいす
(註三) 幽襟=心中の深いおもい
平成三十年三月 光琇
二月になると梅が春の兆しを告げ、そして桜とともに本格的な春がやってきます。今年は梅の開花は遅れ、桜は早く咲いて一気に散ってしまいました。しかしこの後は、新緑とともに色とりどりの花が私たちの目を楽しませてくれます。四季のある日本は本当に素晴らしい国ですね。
私の通った生駒小学校は小高い丘の上にありました。門と校舎の間には大きな芝生が、運動場の周りには何本もの桜の木が植えられていました。通学路も川あり田畑ありの環境で、今にして思えば、環境に恵まれた子供時代であったわけです。花咲く季節が訪れると、子供時代の故郷を思い出すのはなぜでしょうね。
意訳 春の兆しを探ろうとして、日常を離れて友人と一緒に琵琶湖周辺をぶらついた。そこの水辺で、花が野原に開いているのを目にして、酒を交わしながらその花を愛でることにした。
今年の冬は寒い日が続きましたが、3月には三寒四温となり、暖かい日には家の近くの川辺で散策する人が多くなりました。梅の開花は例年より遅れましたが、鳥たちは春の気配を感じているのでしょうか、あちらこちらで囀る声が高まっています。
梅の次は桜です。3月中旬に急に暖かくなったためか、桜の開花は例年より早いようです。春から夏にかけて次々と花たちが景色を彩ります。そして、秋には紅葉、冬には雪景色が我々の目を楽しませてくれます。これらの景色の移り変わりを見るたびに、「四季に恵まれた日本に生まれてよかった」という実感があふれてきます。
軽寒汀渚淡霜晨 軽寒の汀渚 淡霜の晨
白鷺翩翩画景新 白鷺翩翩 画景新たなり
芳草幽香流水岸 芳草の幽香 流水の岸
早梅雖未一枝春 早梅未しと雖も 一枝の春
(註) 翩翩=ひらひらとひるがえるさま
平成三十年二月 光琇
意訳 軽寒の水際に薄い霜がかかっている早朝、白鷺がひらひらと翻って景色が新たになったようだ。早梅がまだ開いているわけではないが、枝には何となく春の気配が感じられる。
湖北町は、名前からわかるように琵琶湖北部の町で湖に面しており、2010年に長浜市に編入されました。湖岸の水鳥公園から神の棲む竹生島を望むことができます。夕刻に湖北町に到着するようにツアーがスケジュールされていたので、竹生島を含めて美しい夕焼けを撮影することができました。2月末の湖北の夕刻はまだ肌寒く、シャッターを切る指が凍えてしまいました。
湖岸には、一年を通して多くの野鳥が訪れます。コハクチョウが北帰行の準備をしていたのでしょうか、群れを成していました。今度来るときにはどんな野鳥が訪れているでしょうか。
意訳 竹生島の姿が夕暮れにかすんでぼんやりと見える。大きな鳥が群れ来て、波の上で頻りに鳴いている。夕陽が赤々と照り輝いて雲と水に映じ、今にも沈もうとしており、そんな湖北の浜辺で景色に見とれてしばらく茫然と立ちつくした。
竹生島影暮煙巡 竹生の島影 暮煙巡り
鴻鵠群来鳴浪頻 鴻鵠群れ来りて 浪に鳴くこと頻なり
落暉赫灼映雲水 落暉赫灼 雲水に映じ
頃刻茫然湖北濱 頃刻 茫然たり 湖北の浜
(註一) 鴻鵠=大きな鳥、ここではコハクチョウ
(註二) 落暉=沈む太陽の光
(註三) 赫灼=あかあかと光り輝くさま
平成二十九年三月 光琇
3月になると、桜の開花時期が気になります。また、桜は咲くとすぐに散ってしまうので、咲いたら咲いたで今度はいつ散るかが気になり始めます。古今和歌集で在原業平が「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」と詠んでいるように、桜が気になる日本人の心は今も昔も変わらないようです。3月半ばになって急に暖かくなりました。今年は例年より早く桜が春を連れてやってきそうなので、月末には仲間と近所の摂津峡桜公園で花見酒という話になっています。
漢詩では梅や桃を詠ったものは多いですが、桜(中国語では桜花)はあまり見かけません。また桜を含む詩語もほとんどありませんが、日本の古典では花と言えば桜をさします。あのパッと咲いてパッと散る桜は日本人の心を象徴しています。
驟暖江城草色匀 驟暖 江城に草色匀い
鶯聲聞處一枝春 鴬聲聞ゆる処 一枝の春
東風吹洽櫻花早 東風吹いて洽く 桜花早し
預備壺觴迎客人 預め壺觴を備え 客人を迎えん
(註) 壺觴=酒壺と杯
平成二十八年三月 光琇
意訳 急に暖かくなって、川の流れる街中には草木が色づき始めた。鶯も鳴き始めて春めいた気配になってきた。春風が街にあまねく、早や桜の花も咲き始めるだろうから、客人が来た時のために酒壺と杯を準備しておこう。
摂津峡は大阪府高槻市の芥川上流に広がる渓谷です。北摂随一の景勝地とされ、約4kmにわたって、奇岩、断崖、滝などが続いており、渓流に沿ってハイキング・コースが整備されています。芥川は上流部に市街地がないため常に碧水(青緑の澄んだ水)を湛えています。また瀬と淵が変化に富んでいることから川魚の種類も多く、近くの「アクアビア」で川魚をはじめ生き物たちの生態を知ることができます。また摂津峡は桜や紅葉の名所としても広く知られており、まさに自然美の宝庫といえます。
渓谷の下流地点には桜公園があり、その名の通り春になると一面に桜が咲き誇り、花見客で賑わいます。公園にはステージや子供たちの遊具も設置されているので、幅広い年代の人たちに人気があります。
靜境逍遥敧岸頭 静境に逍遥す 敧岸の頭
滔滔碧水抱岩流 滔々たる碧水 岩を抱きて流る
櫻花滿眼庵山脚 桜花満眼 山脚を庵い
伴友陶然携酒遊 友を伴い陶然として酒を携えて遊ぶ
(註一) 敧岸=切り立った岸
(註二) 陶然=酒などによって、うちとけ気持ちの良いさま
平成二十六年三月
意訳 静かな雰囲気の切り立った岸のほとりをぶらぶら歩くと、青い水が岩の間をとうとうと流れるのが見える。桜の花が見渡す限り山のふもとを覆っている。そんなところで、友人たちと気持ちよく酔いながら酒を酌み交わした。
驟暖陽光芳草萌 驟暖の陽光に 芳草萌え
東風丘上訪山櫻 東風の丘上に 山桜を訪ぬ
有朋相集花枝下 朋有り相集う 花枝の下
誰厭高吟重酒觥 誰か厭わん 高吟し酒觥重ぬるを
(註一) 芳草=萌えるばかりの香るような若草
(註二) 觥=つのさかずき
平成二十四年四月 光琇
意訳 俄かに暖かくなって、日の光に香るような若草が出そろってきた。そんな中、さわやかな春風が吹く丘の上に山桜を尋ねた。桜の木の下で友人たちと集まって、遠慮することなく大声で吟じつつ杯を重ねた。
2月には梅の花が春の訪れを告げます。3月の半ばを過ぎて寒さが和らぎ桜の開花が待ち遠しくなると、いよいよ本格的に春がやってきます。4月には、桜につられて戸外に出る人が急に多くなります。日本には四季があり、季節ごとに自然が彩りを添えてくれます。最近は春と秋が昔より短くなったような気がしますが、それでも四季は必ずめぐります。
この詩は、暇な連中が集まって桜の木の下で一杯やろう、ということになった時のものです。まだちょっと空気がヒンヤリとしていますが、飲んでいるうちに温まってきます。そのうちに多くのグループが宴会を始め、だんだんと賑やかになります。高吟とは、声高らかに漢詩などを吟ずることです。わがグループには詩吟をやる人もいたので、盛り上がってくると出るかなと思ったのですが、それはありませんでした。