◇雄松崎懐琵琶湖周航
◇登夏山
◇暮色浪速舟遊
◇初夏靭公園
◇夏夜對月
◇荷池看鶻飛
◇神戸港水亭避暑
◇志賀高原避暑
◇南港野鳥園
◇上故山
◇赤目四十八滝
「♪われは湖の子 さすらいの・・・」で始まる琵琶湖周航の歌は、第三高等学校(三高、現在の京都大学)の第二寮歌として歌い継がれ、加藤登紀子が歌ってからヒットしました。三高在学中の小口太郎が1917年に琵琶湖で漕艇中にこの歌詞を思い付き、翌日漕艇部の部員に紹介したのが始まりです。当時流行していた歌の節にのせて琵琶湖周航の歌が完成し、その後、歌詞は6番まで補完されました。作曲者はよくわからなかったのですが、「ひつじぐさ」というのが原曲であるらしいということから、吉田千秋が特定されたようです。なお、小口は26歳、吉田は24歳の若さで夭折しています。
滋賀県では、1番から6番までの歌詞の舞台になったところに、それぞれの歌碑が設置されています。私が訪れたのは高島市近江舞子の雄松崎です。石碑に2番の歌詞「♪松は緑に砂白く 雄松が里の乙女子は 赤い椿の森蔭に はかない恋に 泣くとかや」が刻まれていました。
5年前の8月に志賀高原に登った時を思い出しての詩です。登ったといっても、ケーブルカーで登ったのですが。志賀高原は、上信越高原国立公園の一部である長野県山ノ内町とその周辺一帯に広がる高原です。標高が1000m以上で、冬はスキー客で賑わい、夏は爽やかです。最高気温が30度を超える真夏日になることも熱帯夜になることもありません。
高山植物が豊かで、それにトンボが群がっていました。薄雲の向こうに聳える北アルプスの山並みが印象的で、天気の良い日には富士山も見えるようです。
遠上巍巍雲外巓 遠く上る 巍々たる雲外の巓
連峰如黛青天展 連峰 黛の如く 青天に展ぶ
涼風颯颯忘三伏 涼風 颯々 三伏を忘れ
坐聴溪流注石泉 坐して聴く 渓流の石泉に注ぐを
(註) 巍巍=盛り上がって高大なさま
令和四年六月 光琇
意訳 遠く(信州の)高大な山に上り、雲上の巓に到った。遥か(西を)望むと、(北アルプス)の連峰が黛のような形で青天に連なっている。山上の涼しい風が真夏であることを忘れさせてくれる。草原に座っていると、谷川の泉に濯ぐ音が聞こえて心地よい。
大阪では、市内を流れる大川(旧淀川)でアクアライナーが運行しており、予約すればだれでも乗船することができます。区間は大阪城港から出港して淀屋橋周辺でユーターンします。しかし残念ながら夜は運行していないので、この詩は、アクアライナーで夜間に舟遊したらこうだろうな、というイマジネーションで作りました。
写真は中之島の夜景です。大阪都心の河川は、以前はドブ川でしたが今はきれいになっており、ライトアップされた橋もいくつかあります。そんな雰囲気の中で、リバーフロントにテラスを出している店舗もちらほら見受けられます。しかし、都市河川は汚いという先入観があるのでしょうか、ヨーロッパなどと異なって川を背にした街づくりになっているところが多いような気がします。河川が沖積平野を流れていて水位が高いからかもしれません。今後、水位・水質管理がきっちりなされ、楽しいウォーターフロントづくりが進むことを期待します。
危樓高閣暮煙浮 危楼 高閣 暮煙に浮かび
都会紅燈映水幽 都会の紅灯 水に映じて幽なり
不識喧騒何処在 識らず 喧騒 何処に在りや
蒼波溶漾夜悠悠 蒼波溶漾 夜悠々たり
(註) 溶漾=波がゆらゆらとたゆたうさま
令和三年八月 光琇
意訳 (舟が走り出すと)川の両岸に連なるビルが夜の闇に浮かび、ライトアップされた橋の欄干などが幽かに水に映っている。街中の喧騒はこちら側には伝わってこず、蒼いさざ波にゆられながら、浪速の夜がゆっくりと流れていくのを感じるだけである。
嫩緑幽蹊人影稀 嫩緑の幽蹊人影稀なり
薔薇開遍酔芳菲 薔薇開いて遍し 芳菲に酔う
薫風清爽浪花苑 薫風清爽 浪花の苑
半日徘徊足忘機 半日徘徊 機を忘るるに足る
(註一) 芳菲=花のよいかおりがすること
(註二) 忘機=世俗的な欲望を忘れること
令和三年六月 光琇
意訳 新緑がまぶしい靭公園の小道に人影は少ない。そんな都会の喧噪を隔てた空間にバラが所狭しと咲き誇り、その香りに酔いしれる。初夏のおだやかな風が都心の公園に満ちて実に爽やかだ。半日徘徊して、煩わしいことをすべて忘れることができた。
靭(うつぼ)公園は、東西約800m、南北約150mの細長い形をしており、南北方向のなにわ筋により東西に分かれています。総面積は約9.7ha(甲子園球場の約五倍)です。緑空間の少ない大阪都心においては、大阪城公園、中之島公園と並んで貴重な都心のオアシスとなっています。園内には、庭球場、レストラン、バラ園があり、高木が林立する散策路でそれらがつながっています。バラ園では、色とりどりのバラが咲いており、初夏の新緑の中でバラの香りが満ち満ちていました。昼休みの時間に訪れたので、周辺のオフィスのサラリーマンやOLがちらほら昼食をとっていましたが、そんなに人は多くなく、密の心配は全くありませんでした。
現在、公園中央のなにわ筋で地下鉄工事が進んでおり、それの駅が出来ると靭公園の様相が少し変わるかもしれません。しかし、御堂筋線、谷町線、堺筋線に続いて新たな南北軸が形成され、都心から関西空港への利便性が高まることになります。
信州のバスツーに参加しましたが、あいにくの雨で、天竜舟下りは中止になりました。夜の星空観賞もあきらめて、満月を想像しながらの詩になりました。月は地球から最も地球に近い天体ですが、それでも38万km離れているので50年前のアポロ11号の月面着陸は大変なプロジェクトであったと思います。
地球を離れて月面に着陸することも難しいでしょうが、それ以上に月面からの帰還が至難の業だったでしょう。月と違って地球には大気があるので、大気圏への進入角度を間違えると、跳ね返されるか摩擦熱で燃え尽きるかといったリスクがあります。当時のコンピュータの性能で本当にそんな高度な制御ができたのでしょうか。
孟夏信州涼意盈 孟夏の信州 涼意盈ち
無聊酌酒一輪明 無聊 酒を酌めば 一輪明らかなり
素光滿地天如水 素光地に満ち 天水の如し
獨拂旅愁心自清 独り旅愁を払い 心自ずから清し
(註一) 孟夏=初夏
(註二) 無聊=さびしいこと、退屈
令和元年八月 光琇
意訳 初夏の信州にはまだ夏がやってきてないようで涼感に満ちている。退屈しのぎに酒を酌むと、明るい満月が上がってきた。その白い光は地面を照らし空は水のようだ。そんな月を見ていると、自然と一人旅のわびしさが消えさり心が洗われるようだ。
神戸市のポートアイランド南端に神戸どうぶつ王国というテーマパークがあり、テーマは「花と鳥とのふれあい」です。多数の展示植物が配置された温室などで、鳥たちが放し飼いになっています。
詩はハス池を対象としていますが、実際に神戸どうぶつ王国にあるのは、スイレンの池です。ハスは水面より高く花や葉をつけるのに対してスイレンは水面に花や葉をつけるところが異なりますが、ハスとスイレンとはよく似ており、なかなか見分けがつきません。このスイレンの池ではバードショーが行われており、訓練されたハヤブサなどがパフォーマンスを行います。
海邊王國訪荷来 海辺の王国 荷を訪うて来る
白紫紅黄競色開 白紫紅黄 色を競いて開く
忽過眼前雙鶻影 忽ち眼前を過ぐ 双鶻の影
颯然風起復飛囘 颯然と風起こり 復 飛び回る
(註) 颯然=さっと風の吹くさま
平成三十年七月 光琇
意訳 海辺の(神戸どうぶつ)王国にハスの花を見にやってきた。いろんな色の花が競うように開いている。その時、突然、二羽のハヤブサが目の前を飛び過ぎ、さっと風が起こってまた元のところに戻っていった。
神戸ハーバーランドの東側には複合商業施設モザイクがあります。海と運河に囲まれた三階建ての建物で、ショッピング、レストラン、アミューズメント施設が入っています。モザイクからは、神戸港の象徴である神戸ポートタワーなどが見渡せます。また目の前の旅客埠頭からは、神戸港めぐりの遊覧船などが出入りしています。
1995年の阪神淡路大震災により、神戸港は壊滅的な被害を受けました。対岸のメリケンパークの入り口付近に神戸震災メモリアルパークがあり、ここには震災の痕跡が残されていますが、神戸港全体は何事もなかったかのように復活しています。
消暑埠頭潮気香 消暑 埠頭に潮気香り
樓臺倒影水中煌 樓臺 影を倒にして 水中に煌たり
帆船蕩漾涼波裏 帆船蕩漾 涼波の裏
乗興耽詩已夕陽 興に乗じて詩に耽ければ 已に夕陽
(註) 蕩漾=ただようさま、水がゆれ動くさま
平成三十年六月 光琇
意訳 暑さが和らいだ埠頭には潮の香りが漂っている。ポートタワーは姿をさかさまにして水の中央に映っている。帆船が涼しげな波の上でゆらゆらと揺れており、興味深く見つめながら詩作りに耽っていると已に夕方になっていた。
志賀高原は、長野県下高井郡山ノ内町にある上信越高原国立公園の中心部を占める高原です。高原には一の瀬高山湿原が広がっており、せせらぎ遊歩道を通って湿原巡りをすることができます。この遊歩道は、高天ケ原湿原を源とする小雑魚川沿いに、上の湿原、中の湿原、下の湿原、ダイヤモンド湿原をつないでいます。それぞれの湿原には、多種類の湿生植物が繁茂しています。
8月初めのバスツアーの初日に志賀高原を宿泊し、翌日は戸隠に行きました。この辺りはスキー場のメッカですが、夏なのでもちろんスキー客はいませんでした。
避暑登来信越峰 暑を避け 登り来たる 信越の峰
晴嵐紫翠碧山雄 晴嵐 紫翠 碧山雄なり
白雲片片如波浪 白雲片々 波浪の如し
尽日優遊万里風 尽日の優遊 万里の風
平成二十九年八月 光琇
意訳 暑さを避けてはるばると登ってきた信越地方の峰は、晴れわたった美しいかすみに包まれて姿が雄々しい。白い雲が切れ切れに波を打っているようだ。まる一日、吹き渡る風の中をゆったりと歩き回った。
風光満渚麦秋時 風光渚に満つ 麦秋の時
携友逍遥野水涯 友を携え逍遥す 野水の涯
格格游禽鳴緑樹 格々として 游禽緑樹に鳴き
悠然白鷺泛漣漪 悠然として 白鷺漣漪に泛ぶ
(註一) 麦秋=麦の熟するころ(六月初)
(註二) 簇簇=むらがっているさま
(註三) 格格=鳥の鳴く声の形容
(註四) 漣漪=青いさざなみ
平成二十九年六月 光琇
意訳 麦秋の季節、風が木の葉を動かし、日の光が渚に満ち満ちている。そんな水辺を友人たちとぶらつき歩いた。樹の枝では小鳥たちが美しい声で囀り、白鷺が水面に悠然と浮かんでいる。
大阪南港野鳥園は、港湾関係事業の一環として、主に大阪湾岸一帯に生息する水鳥を中心とした野鳥の保護を目的として、1983年に開園しました。もともとこの地区は渡り鳥の生息地であったため、港湾事業に伴うミティゲーション(事業に伴う自然破壊の緩和・再生)として整備されたようです。施設面積は19.3haで、そのうち湿地部は12.8ha、緑地部は6.5haです。展望塔からは、明石海峡に沈む夕景を望めます。
鳥の撮影のために、300mmの望遠レンズを購入して友人と3人で出かけましたが、展望塔からはなかなか野鳥に出会えませんでした。そこで、北観測所に移動したところ、森に群がるムクドリを発見しました。ムクドリは動きが早く、また望遠レンズを使いなれていないため、カメラにおさめるのが大変でした。しかし終わってみると、私だけが木の枝にとまっている食事中のところを撮れていました。
行尋郷里仰山巓 行きて郷里を尋ね 山巓を仰げば
如黛雲峰五月天 黛の如き雲峰 五月の天
俯瞰紫藤連壑處 俯瞰す 紫藤壑に連なる処
鶯声一笛遶溪煙 鴬声一笛 渓煙を遶る
(註一) 故山=故郷の山
(註二) 山巓=山のいただき
平成二十七年七月 光琇
意訳 郷里をたずねて生駒山の頂上を仰ぐと、まゆずみのような雲峰が5月の空に見える。下を見下ろすと、紫色の藤が連なっている谷が見える。そこで突然鴬の声がして、靄のかかった谷間に響き渡った。
国道308号は、大阪府東大阪市から奈良県生駒市に抜ける国道で、道路地図にも載っています。しかし、その国道を自動車で峠越えしようなどと考えてはいけません。国道は生駒山頂の少し南側の暗峠(くらがりとうげ)を東西に越えるのですが、峠付近は何と石畳で自動車1台が軒下をかすめてやっと通れる程度の幅員です。また、東大阪市側は急勾配(最急勾配は30%=100m進んで30m上る)のヘアピン・カーブが続き、登り切れないで立ち往生する車もあります。国道308号は、知る人ぞ知る名物「酷道」なのです。
私は生駒市生まれで、生駒山頂には何度も登りましたが、暗峠には行ったことがなかったので、5月の初めに生駒市側から国道を歩いて上り、東大阪市側に下りました。上りは谷間に拡がる段々畑や藤の花を見る余裕がありましたが、下りは急勾配をころばないようにするので精一杯でした。
赤目四十八滝は、三重県名張市を流れる滝川の渓谷にある滝群です。赤目の由来は、役小角が滝に向かって行をしていると、不動明王が紅い目の牛に乗って出現したという伝説から来ているようです。清らかな流れと深い森がつくる深山幽谷で、川沿いに4kmの遊歩道が整備されています。紅葉の名所でもあり、秋には多くの観光客で賑わいます。
8月の初めに、孫たちと青山高原のホテルで2泊し、伊賀の忍者屋敷や赤目四十八滝に行きました。到着するまでは熱かったのですが、散策路に入ると、マイナス・イオンのせいでしょうか、一変してヒンヤリとした空気となり、頑張って登ろうという気になりました。とはいえ、往復3時間のフルコースは老体にこたえるので、途中の不動滝で休憩し、かき氷で体を内側から冷却してから引き返しました。
林間幽径避驕陽 林間の幽径に驕陽を避くれば
落瀑滔滔引爽涼 落瀑滔々 爽涼を引く
雨後彩虹天寂寂 雨後の彩虹 天 寂々たり
鳥聲和水緑風香 鳥声水に和し 緑風香し
(註) 驕陽=盛んに照り輝く太陽
平成二十六年八月 光琇
意訳 麦秋の季節、風が木の葉を動かし、日の光が渚に満ち満ちている。そんな水辺を友人たちとぶらつき歩いた。樹の枝では小鳥たちが美しい声で囀り、白鷺が水面に悠然と浮かんでいる。